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2012年3月 4日 (日)

『半生の記』 松本清張 (21)

■平凡な暗さ

これは恨みの塊だ。本当は話したくなかったであろう内容で、話すべきではないと清張も思っていたはず。けれど、両親がなくなって数年後に出版される。そこを見逃すわけにはいかない。

両親の存在は子供にとって大きい。清張の場合、自分の人生は両親の人生のおまけであって自分が主役の人生ではなかった。親の愛情表現も自分を親子関係に拘束するための手段として捉えている。一人息子の辛さ、しかも貧乏。両親との生活のために自分のやりたいこともできず望みを持つことすら虚しい状況で生きていく。清張には自分の人生のコントロール権がない。両親に付きまとわれ、戦争にも駆り出され、会社の中に目標を持つことすらできない。自分の人生に積極的に関わることができないのだ。自分の決定権が自分にはないのだ。

あまりに辛かったのだろうかこの自伝、どこか人事のように書いてある。流され流され生きてきたのが文章からもよくわかる。時折、新聞社に仕事を求めたり、箒を西日本に売り歩いてみたりと行動力を発揮する場面もあるが、それすら父親の大胆な性質と重なって見えてしまう。母親の悲観的で損な性質も清張の基本的な部分をしっかりと構成していて、あぁこの両親の子供であり本当に芯から拘束されているのだなぁとそら恐ろしくなってくる。

あとがきまで含めて両親の死でこの半生の記が終わるのだから、清張にとって本当に大きな人生の区切りは小説家になるかならないかなどではなく、両親の存在であったということは明らかである。半生の記とはよくできたタイトルだと思う。

清張は小説家になり周りの見る目も変わりだしたけれども、何も変わらずこの日々が死ぬまで続くであろう人達が大勢出てくる。清張だって誰かの何かで変わらなかったかもしれない。底辺のような、歯車としてすら認めてもらえないような人生がたくさんあって、省みられもしない。これって本当に怖いことだと思う。どうすればいいのかはわからない。

現在、恨み事はなかなか書けなくなっている。これを読むのは辛く進まないけれど、貴重なものだと思う。

★自伝評価
・オススメ :■■■■□
・役立ち   :■■■■□
・面白い   :■■□□□
・感動     :■■■□□

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