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2011年6月26日 (日)

『球界の野良犬』 愛甲猛 (14)

■自分ルール

暴露を期待するおもしろさ。暴露を楽しめる自分に嫌悪する、共犯意識というか、下劣な楽しみ方。愛甲の暴露は間違いなく面白い。普段、本当はこうなんだろ、と思いながらもお約束としての綺麗な野球を楽しむ、そこに安心感とがっかり感と卑劣感をたたきこむ。読むほうにもこんな本駄目だという建前をつくらせながら、内面ではにやつかせる。困った本だ。暴露されているのは自分の性質の方。感想を求められるのが一番困ってしまう。悪趣味だけど間違いなくおもしろいよ。

この自伝、みんなが知らない俺、を書いたものであって自分の内面を見つめなおして書かれたものではない。だから暴露に終始する。自分の欲望に素直、生きたいように生きる、その延長線上にこの自伝もある。こういった自伝は世間との距離感が肝になっていて書ける人は限られている。愛甲にはドンピシャで、知名度がありイメージもありで裏面を想像させられてしまうような強烈なキャラクターも備わっている。自伝というか裏面史とでもいったほうが正しい作品だ。

この自伝の本当の面白さはここから先、この自伝を書いたことによって愛甲がどうなるのか、黙殺され続けるであろう愛甲自身の今後。球界を離れ、唾を吐きかけ、それでも野球が好きだという愛甲のこれから。今度こそ野球と絡めようが絡めまいが愛甲自伝の本当に面白い部分になるはずだ。終わった自伝の先に本当の面白い自伝が待っている。必ず書いてほしい。

プロ野球を目指す子供たちにはぜひ読んでもらいたい、身体能力だけでなく思いの面で愛甲ほどのものが野球にあるのか、そして愛甲のような同僚がいることを受け入れられるのか。間違っていることの方が多いが、それでもそれだけ野球しかないという気持ちは伝わってくる。

同時代に生きている私には昔々の自伝と違って現実感が強い。年をとってから同世代の人が書く自伝を読むことが今から楽しみだ。気持ちよく読めるようになってはおきたいが。

★自伝評価
・オススメ :■■■□□
・役立ち   :■■□□□
・面白い   :■■■■□
・感動     :■■□□□

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