« 『もぐらの歌‐アニメーターの自伝』 森やすじ (12) | トップページ | 『球界の野良犬』 愛甲猛 (14) »

2011年6月21日 (火)

『旅人 ある物理学者の回想』 湯川秀樹 (13)

■古き良き学者さんの自伝

一昔前、大学と教養が直接的に結び付けられていたころのアカデミックな雰囲気がこの自伝にはある。ノスタルジックで強く憧れる。現代の大学とはあまりにかけ離れていてうらやましい気持ちになるが、今の若い人がこれを読んで張り切ると必ず失望してしまうだろうなとも思う。

湯川が学者として生きたことからか、世の中一般の人が社会に関わり始めるときに感じる違和感や不快はほぼみられない。27歳までしか書かれていないがそういった下界のことは想像上のものだったようだ。

湯川は空想家のきらいがあったのではないか。想像力が湯川を読み解く鍵になる。理論物理学の発展にきっかけをつくるといった成果や自伝内の文章の構成は想像力が豊かであることの証明になっている。自伝内では行動の表現が極端に少ない。ほんの少しの出来事に山ほどの心情説明、まるで行動しないことへの言い訳を連ねているようで相手をするのが面倒になってくる。しゃらくさい感すらある。

外から自分を客観的に見ている。対象物としての自分。自分自身のことだけでなく生まれ育った環境に多くのページが割かれている。親や兄弟、学校もそうだが何より風景描写が多い。自分自身の形成において環境こそが一番大きかったということを表しているのだろう。京都人の心性について京都の建物の構造から説明していることからもそういった意図は読み取れる。

人生何がきっかけで変わっていくかなどわからないのだな。ノーベル賞までとった湯川が意固地ともいえる性格を持ちながらも些細なことで人生の選択枝が狭まっていったところをみると少し驚いてしまう。流されて辿り着いたともいえるところでがんばったのだから意志が弱いのだか強いのだかわからない。意思だけは強い内弁慶だったのだろうか、よくわからない。

自分を突き放した書き方の回想録で、自伝の書き方としてはまるで私小説と自伝の間のよう。自伝として色々試しているし、書かれた文章もきれいでうまい。

結婚はそんなに凄いものなのか。孤独感を強く意識して生きてきたはずの人間を孤独ではないとまで言わせる。助け合う関係に孤独感は消え去るのか。うらやましい。

物理学の説明は私にはよくわからなかった。
自伝の大事な部分を読み落としたような気もする。

★自伝評価
・オススメ :■■■■□
・役立ち   :■■■□□
・面白い   :■■■□□
・感動     :■■■□□

« 『もぐらの歌‐アニメーターの自伝』 森やすじ (12) | トップページ | 『球界の野良犬』 愛甲猛 (14) »

学者の自伝」カテゴリの記事

トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.f.cocolog-nifty.com/t/trackback/1519050/40483495

この記事へのトラックバック一覧です: 『旅人 ある物理学者の回想』 湯川秀樹 (13):

« 『もぐらの歌‐アニメーターの自伝』 森やすじ (12) | トップページ | 『球界の野良犬』 愛甲猛 (14) »